掻き消す言葉
ああこれで、終った、そんな気がした。
自分の手を汚す事は全く出来なかったのだけれども。
そもそも自分はそんなに被害を受けた訳でも無くて。
だからこそ、こうなって欲しかったのだろうなあ、なんて。
其れがあの人たちの幸せなんだって、言い聞かせて。
少し寂しいけれど良かったんじゃないかって、言い聞かせて。
これは嘘じゃないんだよって、伝えたくなったのだけれども。
其れはもう叶わなくて、ああ仕方ないやって、思わず口から零れた。
でも本当に少しだけ、寂しいんだ、少しだけ。
泣いたり喚いたりするタイプじゃないから、そうしないけれど。
笑って真剣になれないタイプだったから、そう出来ないけれど。
でも本当に少しだけ、
二つ並んだ冷たい石の前に綺麗な花束を置いて来た。
おまけに二つポケットに入っていた飴玉も添えた。
「じゃーな」
離れた所に一つ有る冷たい石の前。
もう何も持っていなくて、小さく会釈して通り過ぎた。
「でも本当に少しだけ、」
言いかけて首を横に振って、くす、と笑って其の場を去った。
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