知っている中から引き出して考えて答える

認識するには随分と時間が掛かった。
存在しない、と言う状態が自分にとっての通常だった。
しかし、虚言、演技、其れらの表現は違った。
「どうか、感じたと、言わせて下さい」
そう言った感覚の事では無いのだ、と。
「それは、違い、ます」


注して嫌なモノでは無かった。
一つ挙げるなら、己の行動や言動が相手を追い詰めていた。
知ってはいたが、解ったのは昨日の事だった。
「これが…美味い訳ねェだろ…」
だからと言ってこんな行動と言動で其れを突き詰める自分、が。
(わざと不味く作ったってのに)


悲しくて堪らない、ただ悲しくて堪らない。
伝えるよりも前に感じる事が出来ない。
苦しくて堪らない、ただ苦しくて堪らない。
何も感じられないのにずっと感じているフリをしていたなんて。


「でも、味が、解らなくても、」
見る度に痛々しく感じ、それでもそんな事を言う。
「……何だ」
一つだけ、感じていると信じたいから。
「美味しいに、決まって、います」
味覚なんて無いって言うのに、か。
「んな顔しやがって…笑うんじゃねェ…」
「荒垣さんが、作った、から、」
「……もう、良い…」
カチャと金属の音が響き、テーブルに転がる銀色。
真っ白な器には、鮮やかな色彩の饗宴。
目を当てていられなくなって、唐突に抱き寄せる。
幾ら強く抱き締めようと例え骨が折れようと、お前は笑っているんだろう?


「これは…如何言う感じだ…?」
「温かい、です」
「そうか…温かい、か…」

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