特別な平日
いつもより砂糖を多めに、甘く
柔らかく焼いたスポンジの面を白く覆う
苺を置いてまた覆う
手は淀みなく動かしながら、実は
何のためにこれを作っているのか、俺はよく解っていない。
何故、いつもは控える甘味料を、わざわざ増やしたのかも
(それは当然、あいつが甘党だからなんだが
「専用」と言わんばかりの物を作る意味は何だ?)
生クリームの上にスポンジを載せて、
思いのほか綺麗な層が出来ていたから、側面を覆うのはやめた
その代わり、一番上に載せるクリームを厚くする。
おもちゃのような可愛らしい外見になったその上にさらに白を置いて、丸ごとの苺を載せる。
さて、これを何と言って渡そう。
祝い、なのだろうか
(それならこんな、解せない気分にはならないだろうな)
祝いだ、として差し出したとして
何故だ、と返されてしまいそうで
(それも至極当然のように)
自分の想像に、小さく噴き出す
と、
ああ、そうか
思い当たって漸く、目の前の白い塊の意味が見えた。
見えたものの、可笑しなことに
言葉にはならないようで、
なら、まあ いつものように一言だけ。
そうして食い終わるまでじっと見ててやろうか
この手から食わせてやろうか
どんな顔をするだろうか
頬の緩むのがよく解る
早くこれを渡してやりたいが、治まるまでは帰って来ないで欲しい
( こんな風に笑うことをくれた、礼に。
意味もなく俺を幸福にするから
此処に生きていてくれてありがとう )
「 ・・・、 おかえり。」
「 ああ、やる 」
「 別に。・・・いいから食え。」
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