絶を得た子は永遠の土塊へ帰すだろう 1
色々な物が焼ける匂いと眼前の赤褐色。
半分焦げたお菓子を手に、焼け残ったソファの端に腰掛けた。
此処へ来る少し前に「けいやく」した大きな狼は「メシをアサってくる」と残し、焼けた建物の向こうへ行ってしまった。
焦げたお菓子の一欠けを口に、足をプラプラさせ遠くを見ていると、小さな人影が見えた。
続いて、やや悲壮な声が聞こえた。
「マナ…?」
少年の声。
どうやら誰かを探しているらしい事は解った。
その名に聞き覚えは無く、返事をする義理も無い。
何も答えずに居ると小さな人影が近付いて来る、それはやはり少年であった。
少年は此方を見て一瞬驚いた様な顔をした後、少し残念そうな表情を浮かべた。
「あ…ごめん、マナかと思って」
「わたしは、リリス」
「そうかぁ、あ、僕、セエレ」
「セエレ」
「うん、君はどうしてここに」「妹さん…でしたか?」
セエレの言葉に割り込んで来た男の声は、やや慌てていたがしっかりとしている。
一息有って現れた大きな人影、声の主は大きな男だった。
「…ううん、マナじゃなかった」
「ああ…そうですか…」
探している誰かと違った事に落胆しているのだろう、リリスはそんな様子をぼんやり眺めていた。
もう一欠けを口にして、焦げて食べられない残りをぽい、と放り投げる。
「あ、あ、君はどうして此処に…」
その声でリリスは漸く男の顔を見た。
しっかりと閉じられた両目、自分よりも少し後ろを見ているであろうその目の先。
「わたしはもう一つ向こうの町から、来た」
小さく感情の無い声で答えると、男は少し安堵した様な表情を浮かべた。
しかしそれはすぐに寂しそうな、悲しそうなものへと変わった。
「ここも、もう一つ向こうの町も、同じ色」
「あぁ…」
「火をつけた大人たちの、後についてきたの」
それを聞いて今度はセエレが、少し弱弱しい声で話し始める。
「僕も…僕がいた村は誰も居なくなっちゃったんだ…」
「お父さんもお母さんも…それより少し前だけど、妹のマナも」
身振り手振りを加えて、悲しそうに切々と、ただどこか他人事の様にも聞こえた。
「かわいそう、でも、もうおかしはのこってない、ごめんなさい」
「えっ、ううん、ごめんね、僕は僕と同じだねって言おうと」
「さがしてくる」
リリスはプラプラさせていた足を下ろし、ゆっくり歩き始めた。
靴は彼女に不似合いな金属と革で出来た立派なもので、重さからか足元は覚束無い。
「まだこの辺りも危険です、」
声と同時に大きな腕がリリスを抱き止めた。
「あなたもセエレと同じ位…いえ、随分と幼いのですから」
「ん」
「危険な場所をうろついたりしてはいけませんよ」
自分を制した男の顔を見上げると、困った様な厳しいような表情をしていた。
「…あ、ああ…あなたのお名前は」「リリス」
「リリス…良いですか、安全な場所が見付かるまで私達と来て下さい」
制したその腕はしっかりとしいて、とても大きく抗おうとは思えなかった。
「…」
「私はレオナール、向こうにも知り合いが居ます…行きましょうか」
ぼんやりとした表情のまま、リリスは二人に付いて行く事にした。
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