いただきますとごちそうさま
喉の奥に貼り付く独特な香りがいつまでも取れない。
「むつき…如何かした?」
何時もの様に首を横に振り笑う。
佐助は其れを見てむつきの頭を撫でた。
そして、じっと其の目を見詰め柔らかい、しかし低い声で問う。
「何が怖い?」
―わたしに あきたあ すてて
其の言葉にくす、と笑ってもう一度少女の頭を撫でる。
今度は壊れない様に、そっと。
「飽きても捨てないよ、誰かが拾ったら嫌でしょ?」
―あきたあ どうすう の?
「あはは、飽きないと思うけど、ね」
飽きられて要らない物みたいに捨てられる、其れが怖くて堪らないんだろう。
手にしていた鎖を一度じゃり、と引き、むつきを柔らかく抱き締め言った。
「捨てたりはしないよきっと、他は如何か解らないけどね」
数日後。
佐助はぼんやりと其の場に座し、目の前に有る質素な着物に目を落として居た。
そっと布に触れると、其れは冷たく、やけに硬く感じられた。
「ああ、これでもう誰も拾えないでしょ?」
喉に貼り付く独特な香りがいつまでも取れない。
「好き、だよ」
最後の最期まで笑い、何も拒んだりしなかった。
其れが良い方法だと思った。
繋ぎ止めておかないと誰かに拾われて行ってしまいそうで、其れが不安で仕方なかった。
こうすればずっと一緒に居られると思ったから。
誰にも拾われずにずっと、一緒に。
何よりむつきは、うん、と頷いて笑った。
佐助は妙に落ち着いた笑顔で、ぽかん、と口を開き上を向くと息を吸い込む。
其の香りは、消えない。
「ずっと一緒だから心配しなくて良いんだよ」
「もう怖がらなくて良いんだよ、むつき」
貼り付く其の香りにゆっくりと目を閉じる。
まるで幸福感に満たされたかの様な表情で、小さく笑い音を漏らす。
「ああ、ああ、好き、だったよ」
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