エルヴィンとナイル

前提(妄想):ナイルは同期の強く美しいマドンナ(死語)である女性と結婚(所謂喧嘩ップル)したものの、
「お前の顔を見ていると母・妻を辞めて兵士に戻りたくなる」という理由で別居・離婚。
多分子供が自立したら寄りを戻すであろうある種の馬鹿ップル。

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「また奥さんと喧嘩したのか」
「元、だ。何で知ってる」
「皆知っているよ、執務室の電話を使って派手な痴話喧嘩をすれば。別棟の私の耳にも届くくらいにな」
「ここにはかけて来るなと言ってるんだがな」
「お熱いことだ。座って良いか」
「空席なら他にもある」
「つれないな」
「断ってもそうするんだろうが」
「二度は断らないだろう?」
「いけすかない奴だ」
「ありがとう。私も少し人と話したくてね」
「そんな事があるんだな」
「はは」
「皮肉が通じん奴は嫌いだ」
「通じているよ。動じないだけだ」
「今回は何が逆鱗に触れたんだ?」
「…食事をする予定だった。娘も一緒に」
「何故行かない?」
「会食に誘われた。“王家”のな」
「ああ。あそこは本当にいけすかない人間ばかりだ」
「家族との時間より、仕事の付き合いの方が大事なのか、だと。数年前に俺を省いたのは誰だと思ってる」
「常套句だな、映画のようだ。しかし省いたと言う割に、それは…」
「節くれだってきたから抜けんだけだ」
「彼女もか?」
「アイツも?知らなかったな」
「10日に一度は会っているのに?」
「あー…くそ。お前と話していると誘導尋問されているようで居心地が悪い」
「愚痴のつもりだろうが、惚気ているようにしか聞こえないよ。羨ましい」
「羨ましい?」
「どうにも。うまくいかなくてね。円満の秘訣を教えてもらいたいものだ」
「浮ついた話を聞いた覚えは無いが」
「私はお前と違って声が大きくないからな」
「ふん」
「妙な噂の立つ程女を振るばかりだったお前がなあ」
「ああ、あの風評は最悪だった。実際は振られた数の方が多いんだが」
「お前に気が無いからだろう。それを、どんな酔狂な女だ」
「とても可愛らしい子だよ。良い子だ。それに賢い。だが、私よりも兄弟の方が…」
「ちょっと待て」
「何だ」
「…いや、もう少し聞こう」
「? ああ、兄弟の方が好きなように見えてね。好意の性質が違う事は解っているんだが、妬いてしまうんだ」
「……」
「ナイル?」
「いや、まさかとは思うが、お前それは、お前が世話してるあれの、妹の事じゃないだろうな?」
「そうだが」
「(絶句)」

「何か問題があるか?」
「俺には全く理解出来んが、要はあれか、自分好みに育てて嫁に貰おうってつもりか」
「そうなれば嬉しいが、前途多難で悩んでいる」
「その前に悩むべき節は山程あるだろうが」
「ふむ」
「…もういい。お前がイカレてるのは解りきった事だった」
「酷い言い草だ」
「堅実だと言って欲しいな」
「何でも無い顔でサラっと抜かすな犯罪者め」
「言い掛かりだ。同意の上だよ」
「何?」
「彼女も私を受け容れる、ゆるすと言った」
「な、何…何だ、行く所まで行ったって事か?」
「そうだ」
「…はあ」
「どうした」
「呆れて物も言えん」
「どうしてそう涼しい顔をしていられる。ぺらぺらと自分から。暴露すれば失脚させるに十分すぎるぞ」
「誰にでも話しているわけじゃない」
「俺に話す事がどうかしてる」
「組織的対立の事を言ってるのか?暴露すればと言ったが、君はそれをしない」
「何故そう言える」
「同期の、友人だ」
「第一、そのつもりなら私に警告なんてしないさ。昔から面倒見が良いんだ」
「あー」
「ああ、あーわかったもう良い面倒臭い。で、何だ」
「優しいな」
「やめろ気持ち悪い。要するにリヴァイが特別扱いなのが気に食わんと。ガキかお前は」
「そうなんだ。ふふ」
「何が嬉しいんだ」
「何が…そうだな。恋焦がれている実感がある事かな」
「…鳥肌が立つ」
「客観的に言えば、他人という存在に執着している事実が」
「はあ」
「どうした?」
「それがいかんのだろう」
「ん?」
「一線を引いているのはお前だという事だ。鏡を見せておけば良かったか。さっきまでの緩んだ面を」
「ああ。 ああ、そうか」

「悪い癖だ」
「悪い、とは、言えんな 俺も」
「はは。優しいな」
「手放しで没頭出来る年でも立場でも無い。ましてその心情を理解出来る相手でもない」
「女性とはそういうものだろう?」
「うちのは理解してる。頭ではな。心がそれを許さんだけだ。そしてそれを俺も理解してる」
「信頼しているのか」
「いや、疑心にまみれているさ。誓いの証だとか言ってもな。こんな モノで人が繋げるもんか」
「では何故、外さない」
「そういうものだ」
「信じているからだろう」
「いや、違う。“そういうもの”だ」
「わからない」
「何でも言葉に纏まると思うな。秀才君」
「そういうもの なんだよ。お前は頭でものを見過ぎる。それは大人の視界だ」
「ふむ」
「…はあ。中身がガキだから余計に厄介なんだよ」
「私の事か?子供じみた所があるのは、理解しているつもりだが」
「理解していなければならないからな」
「さっきから、随分難解な言い方をしている」
「抽象的か?そうだろう」
「ああ」
「難しく考えているのはお前だ。考えようとするからだ。わかっているのに」
「解らない」
「わかってるさ。だから『悪い癖だ』と。 だから外聞を気にしない…元々“そういう”性分と周りに納得されているリヴァイが妬ましい。お前には出来ない振舞いだからだ」
「…」
「何だ」
「気に食わないな。つまりお前は私を何だと言いたい。お前が私の何を知っている」
「知らんさ。私見を述べただけだ。他人事のように何もかも分析しているような顔をした、いけ好かない男のな」
「他人事だと」
「理解出来るように、敢えて言葉にしてやったんだ。エルヴィン」
「客観的に言えるような事実だ、実感だ?陳腐なロマンス小説でもなぞってるのかお前は」
「ナイル」
「白々しく先見の識者ぶるのはやめろ。わかるだろう」
「ああ、もういい。たくさんだ」
「わかるわけがないだろう。動揺しているばかりだ。これまで築いた私が崩れて行くのが見える。それでも、その映像が鮮明になっていく道から逸れようとは思わない。気が急いて仕方がない。崩れてしまいたいんだ私は」
「じゃあ何だ、手段か。お前の想い人とやらは」
「は?」

「ふざけるな」
「ふざけた事を言っているのはお前の方だと思うがな」
「…。そうだな。感情的になっておかしな事を言った。本心じゃない」
「珍しい物が見れて面白かった」
「言い表せないな。何も。もどかしくて堪らない」
「結構な事だ」
「そういうものか」

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